フライでサーモンを釣るために その3

2018.09.04 Tuesday

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    シリーズの最終回。今回は「フライの選択」の話と「バイトのオンオフ」の話です。初回に別項目でお題を立てたのですけど、この二つのトピックは実は関連性が深いので一緒にまとめます。

     

    川の底を取るためのラインのセッティングは再現性があります。フライをスィングさせる、もしくはスローリトリーブするという技術も再現できます。それらは確実に釣果にへの橋渡しとなり得るわけですけど、サーモンを釣るための絶対的に正しいフライというものは存在しません。そこには「確実な再現性」が無いからです。選択したフライで過去に釣れたという事実はあるかも知れませんが、それは未来の釣果を保証してくれないのです。もちろん、可能性はあります。過去に実績があるわけですから。実はこのフライの不確実性が、サーモンの釣りを面白く魅力あるものにしています。

     

     

     

     

    このことは遡上したサーモンの特性と関係し、以前、遡上したサーモンは食を断ち、餌を取らないと書きました。サーモンは川に産卵のために入ると体内のエネルギー供給システムを変更し、脂肪や筋肉をその供給源に切り替えます。食欲が消え餌を追う必要がないのに、時々フライをテイクする理由はよく分かっていませんが、興奮、遊び心、怒り、気まぐれ、などサーモンの気分によるものではないかと言われています。サーモンは川ではとてもムーディで、日により時間により、そのムードは刻々と変わり2日前に良く釣れたフライが、今日は全く反応しない、ということはザラにあります。もしくは30分前まで何匹も掛けていたフライへの反応が突然消えた、というケースなども頻繁に起こります。バイトのスイッチが入ったとか、アタリが止まったとか、このフレーズはよく現場でよく耳にするのではないでしょうか。これが「バイトのオンオフ」の話とリンクしてきます。

     

    なぜ今まであったバイトが急止まったり、また再開したりするのでしょうか。これをうまく説明してくれた記事など読んだ記憶がありませんし、自分自身もなぜそうなのか、推測も出来ません。サーモンは気分屋だからとか、というだけでロジカルな裏付けが無い状態です。その理由が分かれば、対処する方法も見つけられるはずなのですけど。で、しょうがないので、そういうことが起きるということをまず認識します。言葉を変えると、状況は変化するということですね。そのことを踏まえて川を辛抱強く見ていると、次第にオンオフの間隔らしきものはある程度想像できるようになります。その間隔とは、短くて30分ほど、長ければ2、3時間ほどでしょうか。その間隔は活性の高さが高いほどオフの時間が短くなり、活性が低い時ほど、オフの時間は長くなるようです。

     

     

     

     

    そしてバイトがオフの時にフィッシャーが出来る唯一の打開策というのが、本日のお題のひとつである「フライの選択」となるわけです。絶対的に正しいフライは無いわけですから、打開策と言ってもその可能性があるに過ぎません。全く状況が好転しないまま、日が暮れてしまうこともあるし、フライを変えた途端にヒットが連発するということも。まるでギャンブルなんですけど、ギャンブラーはギャンブラーなりに少しでも勝率を上げるためデータ集め等の準備をしますね。フィッシャーの場合、それは過去に実績のあったフライを出来るだけフライボックスにストックし、状況に応じて随時現場で投入していくということです。この結果フィッシャーのフライボックスのフライはどんどん変化してして、時間の経過とともに様変わりして行きます。要するのに過去に釣れなかったフライは削除され、実績のあるフライだけが残るわけです。1度だけ釣れたフライよりも、3度釣れたフライ、3度よりも5度、というように勝率の高いフライだけでボックスが構成され、それが実際に釣れる確率を引き上げていきます。

     

    さて、実際にどんなフライを作り、どう使えばいいのでしょうか。サーモンのフライは、タイヤーの嗜好やその人の釣りの背景により、様々なスタイルがあり「何でもあり」の混沌状態。非常に芸術的な美しい「釣れない」フライを作る人もいるし、汚いゴミような「釣れるフライ」を作る人もいます。そのスタイルもアトランティックサーモン風、ユーロスタイルのチューブフライなど様々。基本的に自分が好きなスタイルを選択すればいいです。サーモンはその時の気分で、どんなフライでもテイクしますので、あとは使ってそのテイク確率のデータを取ればいいだけの話。私の場合で言うと、7年前にモントリオールから西側に移り、パシフィックサーモンに関する知識が全く無かったので、とりあえずネットでパシフィックサーモン用のパターンを探し、片っ端からパターンを作り、実戦投入しました。実績のあったフライが残り、それに随時、改良を加えて現在に至ります。自分のフライ制作ポリシーとしては、1.シンプルで短時間で巻けること。これは釣り場のサーモンの数が多く、フライは戦場の弾と同じで消費が激しいせい。2.最新のシンセティックのマテリアルを積極的に活用すること。新しい素材はその輝きを従来とは別次元で追求しており、実際に現場でかなり有効なケースが多いこと。特に光モノに関してはいつも新商品をショップでチェックしています。この2点でしょうか。軸になる制作のスタイルといったものは特になくてアトランティックのパターンあり、ソルトパターンあり、つまりノンスタイルですね。

     

     

     

     

    フライのパターンは、ウェイト(ダンベルアイ、ビードヘッド)を使ったものとノンウェイト。テール(ゾンカー、マラブー、シンセティックなど)が有るものと無いものに分かれます。ウェイトを使ったものにテールを付けるパターンが多いでしょうか。ウェイト+テールのパターンは、比較的流れがある場合、また釣り始めなどサーモンに対してフライの鮮度が高い時に使用します。流れがある場所では、シンクティップでサーモンの層まで届かないケースがあり、その補助的な役割して貰うということ、それとウェイトによりフライが流れに揉まれて上下し、それがテールの動きに連動してサーモンのリアクションバイトを誘うことが目的となります。マラブー、ゾンカーなど柔ない素材が水中で見せる独特の動きに、サーモンが引き込まれるのは確かなようです。このパターンの欠点は、フライのボリュームがあるため、鮮度を失うとサーモンに見切られてスクープさせてしまうことです。私はフライのサイズを小さくすることで、スケールダウンを図り、その機能だけを残すようにしました。私のこのテールタイプのフライはせいぜい4、5センチの長さに抑えるようにしています。

     

    ノンウェィトのフライは主に流れの緩い場所で、サーモンがフライをじっくりと見るケースで使用します。このような場所では、テールの付いたボリュームのあるフライはすぐに見切られてしまいますし、スローで漂わせることもその重さのため難しくなります。ただフライのローテーションの見せ球として使用して、ノンウェイトのフライの引き立て役にするという手はあります。私のノンウェィトのフライはテールは付けてもアクセント程度で短く、長さはフックと同じか、やや長めくらい。ショートシャンクの#4か#6のサイズですから、サーモンのフライにしては小さい方だと思います。当初、フライ制作のレシピに合わせて#0、#2あたりで作ってましたが、小さいサイズの方が喰いが良い傾向にあることが分かり、サイズを落としていったのです。通常、大きなサーモンにはそれなりの大きさのフライという先入観があったのですけど、フライがよく見える状況では、どうも単に怖がらせてしまうようです。バイトを取るには、もちろんサーモンの気を引く何かしらのアテンションが必要なのですが、それはサイズではなくて、色や輝き、シルエットといった違う要素という気がします。

     

     

     

     

     

    最後にフライのローテーションの話をしましょう。日本ではサーモンのフライは赤が効くと言われ、多くの人が赤をメインにフライを川へ持ち込むようですが、赤一色のフライボックスだけで気まぐれなサーモンに戦いを挑むのはとても無謀です。その日、赤のフライが効いてくれればラッキーですが、活性の度合いにより、効かない日が必ずあるはず。そもそも私はサーモンが特定の色を好んでテイクするという考え方に否定的です。ここカナダではチャムサーモンは、赤ではなくてチャートリュースなどのグリーン系が効くとよく言われているのですけど、私の経験からはっきり言うと関係ないです。サーモンはあらゆる色のフライに反応します。ただしあなたが釣り場にいるその時、サーモンが何色のフライをテイクするのかは分かりません。その日、その時間でサーモンの気分がコロコロ変わるからです。そこで「今日はどんな気分ですか、何色?サイズは?」とサーモンに聞く作業がフライのローテーションというわけです。

     

    まず現場でサーモンの数がある程度確認できて、サーモンの居る層にフライがしっかりと沈み、流すフライをサーモンがしっかりと見ている、というのが前提で話を進めます。私の場合、まず過去にその場所で一番実績のあったフライを最初に流します。反応が悪い場合、サイズはそのままにして色を変えて行きます。その次にサイズを落として行きます。それでもダメな場合は、サイズ、色、パターンが極端に違うフライを織り交ぜて流します。一度でもバイトがあれば、それをヒントにバリエーションを展開して行きます。それでもダメだったら、諦めて場所を変えます。プールにより活性の度合いが異なり、あるプールではダメでも別のプールでは活性が高かったということはよくあること。大体、一つのフライを3回から4回流して反応が無ければ次に変えますね。このようにサーモンの釣りの面白さは、その日のヒットフライを探ることにあります。あるフライを流し始めた瞬間から、キャスティングするたびにヒットが続くケースも珍しいことではありません。私は複数のフィッシャーがいるプールで、特定のあるフィッシャーだけヒットが続くシーンを何度もこの目で見てきました。そのフィッシャーは長く沈黙が続くプールで、運任せでダラダラとキャストするのではなくて、ヒットフライを探す作業を辛抱強くロジカルに継続していたのです。私はこのことから「フライの選択」は状況を劇的に変える力があることを学びました。

     

     

     

     

    3回に分けて、フライでサーモンを釣ること、についてあれこれ書いてきました。どうでしょう、この秋予定しているサーモン釣行への何かしらのヒントになったでしょうか。日本ではサーモンの釣りには法的なこともあり、本当に様々なしがらみがあるようですけど、一度川に立てば、あなたはサーモンと一対一で向かい合うだけです。サーモンの活性が高ければ、さほど苦労せずに何匹かは釣ることができるでしょう。そして断言しますけど、フライへの反応が悪く、食い渋り、アタリが取れない状況にも、必ず遭遇します。その時に「そう言えば、カナダのあいつ、こんなこと言ってたなぁ、ちょっと試してみるか」と思い出して貰えたら、ほんと、嬉しいです。そしてその試みが、苦しい状況を一気に打破してくれることを、遠いカナダから心から願ってます。

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