シングルハンド・スペイが面白い その2
2018.06.05 Tuesday
今週は釣りに行けなかったのですけど、
前回書いたシングルハンド・スペイについて、
もう少し技術的なことも含めて踏み込んで書いてみたいと思います。
シングルハンド・スペイというカテゴリーに関しては、最近のOPSTのコマンドーヘッドなどショート系シューティングヘッドが市場に出回る前から存在していたようです。自分もネットなどで記事を読んだことがありますが、それは市販のラインをカットしてグレイン単位で切り貼りするようなちょっとマニアックな世界でした。ヘッドの長さは短くても30フィート前後はあり、それを短いシングルハンドのロッドでラインをハンドリングするのはなかなか難しそうでした。この古いタイプのシングルハンド・スペイをオールド・スクールと呼び、最近の極端に短いシューティング・ヘッドを使うシングルハンド・スペイは、ニュー・スクールとカテゴライズしている記事を読み、なるほどと得心。全体の流れとしては、ダブルハンドのスペイのラインが次第に短くなり、スカンジ・ライン、そしてスカジット・ラインが生まれ、それに伴いダブルハンドのロッドそのものの長さが短くなり、スイッチ・ロッドが出現し、さらに低番手のマイクロ・スペイ、マイクロ・スイッチというカテゴリーも生まれたというのがざっとした経緯。低番手のダブルハンド・ロッドを使うのなら、別にシングルハンドのロッドでもいいんじゃね、というのがニュー・スクール誕生の理由だと思います。だからオールド・スクールからニュー・スクールへ直線的に変遷してきたというよりも、別のプロセスでグルっと廻ってきたわけですね。
一番のブレークスルーはやはり革新的なヘッド・レングスのOPSTコマンドーヘッドのリリースなわけで、リオにしろエアフローにしろ、それに追従した形で似たようなコンセプトの商品を出しています。最近ではロッドメーカーが専用の10ft前後の長めのロッドを発売したり、シングルハンド用の短いティップが出たりで、業界全体が新しいシングルハンド・スペイの動きを底上げしているというのが現在の状況。大きな違いはヘッドが極端に短くなっている点で、典型的なスペイというよりも、スカジット・キャストをスケールダウンさせたものに近いと言えるでしょう。当然、短いラインは取り回しが楽になりバックスペースのない小さな川でも使え、スカジット的なライン・デザインにより重さのあるフライもデリバリ−出来るメリットがあります。
ショートヘッド・シングルハンド・スペイ(借りにここではオールド・スクールと区別する意味でこう呼びます)は、主にストリーマーやウェットフライをスィングさせる釣りと湖や海での引っ張りの釣りがメインとなり、ドライフライをライズ地点に正確に送り込むような釣りには向いていません。その手の釣りには、やはり2度、3度とフォルスキャストを繰り返して、距離の感覚を摑むオーバーヘッドのキャスティングに分があります。私の場合、トラウト、サーモン、スティールヘッドともにストリーマーをスィングさせる釣りがメインになりますし、比較的小さな川でバックスペースの取れない環境で釣りをするケースが多いので、この新しいスタイルはまさに自分のニーズにぴったり。大型のサーモンの釣りではダブルハンドでやり取りする方が疲労が少ないとは思いますが、トラウト、小型のピンク・サーモンに関してはシングルハンドでのデメリットは感じられず、むしろロッド、リールを含めて軽めの装備で軽快に釣りが出来るというメリットがあります。ロッドはもちろんですが、ヘッドの長さが短いうえにモノフィラのラインを使うことで小さめのリールを使うことができますしね。
このショートヘッド・シングルハンド・スペイの大きな特徴は、通常のスペイ・キャステングとダブルホールを組み合わせているところにあります。つまりダブルハンドのスペイ・キャスティングとシングルハンドのオーバーハンド・キャスティングのテクニカル・コンバインなわけです。ダブルホールを加えずとも、キャスティングは可能ですが、ある程度の距離を投げようとすれば、どうしても特にシュートの際のホールは必要となります。ロッドがダブルハンドよりも短いにも関わらず、ダブルハンドに近い距離が出る理由としては、このホールの引きと右手のドリフトする距離が長く保てることにあります。つまりテイクバックの位置から右手でやりを突き刺すようにロッドを伸ばすフィニッシュまでの距離がラインにパワーを与えているわけです。Youtubeの動画などを見ると、この前にロッドを突き出す動きがラインのタイトリープ形状を作り距離を稼いでいることが分かります。シュート時のホールで左手を後ろに引くため、身体構造的に自然とロッドを持った右手が前方に出しやすくなるというのもあります。ダブルハンドの場合、両手が塞がっているため身体は閉じられた形となり、シングルハンドのように上半身を捻ってロッドを前に突き出すことが出来ません。ダブルハンドのキャスティングは、ドリフトの距離を長く取れない代わりにロッドの長さで飛距離をカバーするということでしょうか。
テクニカルな部分でもう一点。OPSTなどショートヘッドをダブルハンドで使う際、ウェーディングする深さでアンカーポイントとロッド位置の距離を調節しながら適切なDループを形成する必要があります。自分の場合、ダブルハンドではそのループを見て確認することはせず、感覚で投げていますが、時々ロッドの高さがずれてミスキャストするケースがあります。ところがシングルハンドの場合、ほとんどミスキャストすることがありません。片手でロッドを持っているためなのかロッド位置の微調整を自然に出来てしまうのです。ダブルハンドの場合、身体が閉じてしまうので振り返ってループ確認する際は上半身を捻らないといけませんが、シングルハンドでは首を少しだけ右に振るだけで確認出来てしまいます。左手が自由で身体が開いているからでしょうか。実際には毎回目視して確認しているわけではないのですけど、どうも片手だけの方がグリップ位置の高さの調整がしやすいようです。
このようにキャスティングの構造的な部分から見ると、ショートヘッド・シングルハンド・スペイは単純にロッドをダブルハンドからシングルハンドに変えれば成立するというわけではなくて、ダブル、シングル両方のキャスティング技術が組み合わされたテクニカルなものであることが分かります。ただこのキャスティングに辿りついたフィッシャーというのは、ダブルハンドから来る人がほとんどでしょうし、そのダブルハンドを経験する前にシングルハンドを使っていた可能性も高いわけで、すぐに技術力なハードルはクリアできるはずです。スペイ未経験のフライフィッシャーもしくは全くの初心者がいきなりこれに挑戦すると、オーバーヘッドで投げられてもアンカーを水面に置いたスペイのスタイルではちょっと苦労するかも知れません。ロッドに対するベストなヘッドの重さを割り出すことも重要で、ダブルハンドの経験がないと感覚的に身体で感じることが難しいかも。ダブルスペイの場合、メインのキャスティングの前にペリーポークやスナップTなどの一連の動作も加わりますし、方向転換が可能なシングルスペイであるスネークロールもそのバリエーションとしてあります。リバー・ライト、リバー・レフトと自分が流れのどちら側に立つかにより、キャスティングのパターンも多様に変わってきますので、技術習得という意味ではなかなか奥の深いものがあります。
自分が今このシングルハンド・スペイが面白いと思っているのは、たぶん今まで培ってきたダブル、シングルそれぞれのキャスティングの経験を新たな形に再構築する楽しさなのではないかと思います。最近、サーモンの釣り場でもダブルハンダーが増えてきていますが、今年はそれに逆行してこの新しいキャスティングを携えてシングルハンド回帰してみる予定です。